心臓生体弁をお持ちの方の抗凝固療法について(ワルファリン以外の選択があるのか?)
心房細動の患者さんでは、心臓の中に血液のかたまり(血栓)ができやすくなり、脳梗塞を引き起こす危険性があります。
そのため、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」が必要になることがあります。
これまで心臓人工弁(人工弁)の手術を受けた患者さんでは、長年にわたりワルファリンという薬が標準治療として使用されてきました。
しかし近年、DOAC(直接経口抗凝固薬)と呼ばれる新しいタイプの抗凝固薬が登場し、多くの患者さんで使用されるようになっています。
DOACには、アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、ダビガトランなどがあります。
これらの薬は、ワルファリンと比べて食事の影響を受けにくく、定期的な血液検査による細かな調整が不要であることが大きな特徴です。
以前は「人工弁のある患者さんにはDOACは使えない」と考えられていました。
しかしその後の研究により、「機械弁」と「生体弁」では状況が異なることがわかってきました。
機械弁は金属などの人工材料で作られているため血栓ができやすく、現在でもワルファリンによる治療が必要です。
一方、生体弁はブタやウシの組織から作られており、手術後しばらくすると体になじみやすくなるため、血栓のリスクが比較的低くなります。
近年の大規模な臨床研究では、生体弁をお持ちで心房細動を合併している患者さんに対し、DOACがワルファリンと同等の効果で脳梗塞を予防し、安全性にも大きな問題がないことが示されました。
そのため現在では、多くの生体弁患者さんでDOACが使用できるようになっています。
特に高齢の患者さんでは、ワルファリンのように頻繁な採血や食事制限を必要としないことから、日常生活の負担軽減にもつながります。
ただし、すべての患者さんがDOACに変更できるわけではありません。
人工弁の種類、心房細動の有無、腎機能、出血リスク、手術からの経過期間などを総合的に判断する必要があります。
以上まとめると現在、日本および主要国のガイドラインでは、生体弁(bioprosthetic valve)を有する患者に対してDOAC(直接経口抗凝固薬)を使用することは概ね可能です。
ただし、
• 機械弁(mechanical valve)は禁忌または推奨されない
• 生体弁置換術直後(術後3か月以内)は慎重
• 適応は主に心房細動(AF)合併例
という条件があります。
当院では、心臓弁膜症や心房細動の患者さんに対し、心エコー検査や心電図検査を行いながら、それぞれの患者さんに適した抗凝固療法をご提案しています。
現在ワルファリンを服用されている方で、「DOACへ変更できるのか知りたい」「もっと負担の少ない治療法があるのか相談したい」という方は、お気軽にご相談ください。
患者さん一人ひとりの状態に合わせ、安全で効果的な脳梗塞予防を目指してまいります。
【出典】
1. 2024 ESC Guidelines for Atrial Fibrillation.
2. 2023 ACC/AHA Guideline for the Management of Atrial Fibrillation.
3. Guimarães HP et al. RIVER Trial. NEJM. 2020.
4. Okita Y et al. ENAVLE Trial. Circulation Journal. 2021.
5. Eikelboom JW et al. RE-ALIGN Trial. NEJM. 2013.
6. Otto CM et al. 2024 Valve Disease Guideline Update.






