慢性腎臓病(CKD)の治療において、腎機能低下をいかに抑え、将来の透析や心血管イベントを防ぐかは極めて重要な課題です。
これまでCKD治療の中心を担ってきたのが、ACE阻害薬やARBに代表されるRAS阻害薬です。
RAS阻害薬は糸球体内圧を低下させ、尿蛋白を減少させることで腎障害の進行を抑制する、いわば「腎保護治療の土台」となる薬剤です。
しかし、RAS阻害薬単独では腎機能低下を完全に止めることは難しく、残された腎リスクが問題となっていました。

この残余リスクを大きく低減する治療として近年確立されたのが、SGLT2阻害薬です。
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管での糖とナトリウムの再吸収を抑制し、尿細管糸球体フィードバック機構を回復させることで、糸球体への過剰な負荷を軽減します。
RAS阻害薬が「糸球体の出口(輸出細動脈)」を拡張するのに対し、SGLT2阻害薬は「入口(輸入細動脈)」の過剰な拡張を抑える方向に働きます。
このため、両者を併用することで糸球体内圧をより生理的な状態に近づけ、腎臓を長期的に守る効果が期待できます。

この併用効果を明確に示した代表的な臨床試験が、DAPA-CKD試験とEMPA-KIDNEY試験です。
DAPA-CKD試験では、参加者のほぼ全例がRAS阻害薬を使用した状態でダパグリフロジンが追加され、腎機能悪化や腎不全、心血管死を含む主要な腎アウトカムが約4割も抑制されました。
注目すべき点は、この効果が糖尿病の有無にかかわらず一貫して認められたことです。
つまり、SGLT2阻害薬は「血糖を下げる薬」にとどまらず、腎臓そのものを守る治療であることが示されました。

さらにEMPA-KIDNEY試験では、より幅広いCKD患者さんを対象に、エンパグリフロジンの効果が検証されました。
蛋白尿が少ない方や非糖尿病性CKDの方も多く含まれていましたが、そのような集団においても、RAS阻害薬を基盤とした治療にSGLT2阻害薬を加えることで、腎機能低下や心血管死亡が有意に減少しました。
この結果は、「蛋白尿が多くないから効果が乏しいのではないか」という従来の懸念を払拭し、より早期・広範なCKD治療への応用を後押ししています。

実臨床では、SGLT2阻害薬とRAS阻害薬を併用開始した直後に、一時的にeGFRが低下することがあります。
しかしこれは多くの場合、腎臓に過剰にかかっていた負荷が軽減された結果であり、長期的には腎機能低下のスピードを緩やかにし、腎予後を改善することが分かっています。
適切な水分管理と経過観察を行えば、安全性は高い治療といえます。

これらのエビデンスから、現在のCKD治療では「RAS阻害薬を基盤とし、SGLT2阻害薬を早期に併用する」ことが、糖尿病の有無を問わず、腎臓と心臓を同時に守る標準的な治療戦略となっています。
当院では、最新の臨床研究に基づき、患者さん一人ひとりの病態に応じた最適な腎保護治療を行い、将来の透析や心血管疾患の予防に取り組んでいます。




CKD治療の2本柱:SGLT2阻害薬とRAS阻害薬



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