不眠症は、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠感の欠如といった睡眠障害を主症状とし、日中の機能低下を伴う慢性の状態として定義されます。
不眠は単なる「眠れない」状態ではなく、生活の質や心身の健康に深刻な影響を及ぼす病態であり、糖尿病・高血圧・心血管疾患などとの関連が報告されています。
臨床では睡眠日誌や質問票(PSQIなど)に加え、客観的な睡眠データを用いることで治療評価や生活改善策の立案に活用されます。

近年、Apple Watchなどのスマートウォッチを用いて、睡眠の連続的なトラッキングが可能になりました。
Apple Watchの睡眠評価は、脳波(EEG)を直接測定するポリソムノグラフィ(PSG)ではなく、加速度センサーや心拍センサーを用いた“推定モデル”に基づいています。
具体的には、体動、心拍数の変動、呼吸のリズムなどを総合解析し、睡眠時間や睡眠中の姿勢・覚醒パターンを推定します。

臨床研究では、Apple Watchの睡眠トラッキングがPSGと比較して睡眠と覚醒の判別で高い一致率を示す一方、睡眠段階(レム睡眠・深睡眠など)の正確性は限定的であることが確認されています。
例えば、全体の睡眠時間はPSGと比較して相関が高いものの、深睡眠を過小評価し、浅い睡眠を過大評価する傾向があるとの報告があります。
これは、Apple Watchが体動や心拍変動などの周辺指標から独自のアルゴリズムで睡眠段階を推定しているためです。
したがって、重度の睡眠断片化や頻繁な覚醒がある不眠症例では誤差が大きくなることもあります。

Apple Watchの特徴は、長期的で継続的なデータ取得が容易であることです。
不眠症のように日々の睡眠パターンに変動がある状態では、1夜限りの検査よりも複数夜のデータを解析することが有用です。
睡眠導入後の入眠潜時(睡眠に入るまでの時間)、総睡眠時間、睡眠中の中途覚醒の傾向といったパターンを視覚化し、患者自身が生活習慣との関連を理解するのに役立ちます。
また、Apple Healthアプリやサードパーティーの睡眠分析アプリを通じて、過去の睡眠傾向を日・週・月単位で振り返ることができ、自己管理ツールとしての価値も高まっています。

一方で、いくつかの制限を理解することも重要です。
Apple Watchの睡眠解析はあくまで推定データであり診断ツールではないため、不眠症そのものの確定診断や睡眠障害(例:睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害)の診断には向きません。
専門的な評価や治療が必要な場合には、医療機関でのポリソムノグラフィや臨床専門医による評価が不可欠です。
また、ユーザーが睡眠データを過度に重視することで「スコアへの固執」が不眠を悪化させることもあり、“オルトソムニア”と呼ばれる現象にも注意が必要という指摘もあります。

さらに、Appleは最新のソフトウェアアップデートや睡眠時無呼吸の兆候検出機能を含め、睡眠データの活用を進めています。
これらの進展により、将来的にはより高度な睡眠パターン解析や疾患リスクの評価が可能になる可能性も期待されています。

総じて、Apple Watchによる睡眠パターン解析は、不眠症の患者が自分の睡眠習慣と傾向を客観的に理解し、改善へとつなげるためのツールとして有用ですが、医療的な診断や治療評価は専門的検査と併用することが必要です。
また、データを単独で過信するのではなく、専門医との相談や具体的な生活改善と合わせて活用することが推奨されます。




睡眠脳波検査で測定した健常成人の典型的な夜間睡眠パターン




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