2025年8月23日、大分市のJ:COMホルトホール大分にて開催された第350回日本内科学会九州地方会において、当院院長が腎臓2セッションで口頭発表を行いました。
演題は「初期eGFR低下、長期eGFRスロープに対するエンパグリフロジン単独あるいはRAS阻害薬併用療法の効果に関する検討」であり、慢性腎臓病(CKD)におけるSGLT2阻害薬(SI)とRAS阻害薬(RI)の治療効果について報告しました。

CKDの治療においては腎イベントや心血管イベント抑制のために両薬剤の併用が推奨されていますが、SI単独とRI併用を直接比較した大規模試験は少なく、十分なエビデンスが得られていないことから本研究を実施しました。
研究の目的は、CKD患者におけるエンパグリフロジン(EM)単独療法とRIあるいはARNIとの併用療法について、初期eGFR低下(初期dip)および長期eGFRスロープ改善への効果を明らかにすることでした。
結果として、投与前3年間はeGFRが毎年有意に低下していましたが、EM投与開始後は初期dipを含め1年後まで有意な低下を認めませんでした。
また、糖尿病の有無はeGFRスロープ改善に影響を与えませんでした。
さらに、EMとRI併用群、あるいはEM単独とARNI併用群において有意なeGFRスロープ改善が認められました。
EMとRIの併用群では有意な初期dipが認められましたが、長期的なeGFRスロープでは有意差は認められませんでした。

結論として、EMは糖尿病の有無にかかわらず長期的にeGFRスロープを改善し、その効果はRIあるいはARNIとの併用によりより強調される可能性が示唆されました。
一方で、EMとRIの併用は初期dipを強めることが確認され、これはSIとRI双方による糸球体内圧低下作用が関与していると考えられました。

発表後の質疑応答では、
①RI併用による尿蛋白抑制効果についての質問がありましたが、今後の検討課題としました。
②ダパグリフロジンの効果についてはどうか?同様の作用がありクラスエフェクトと考えられると回答しました(内科学会地方会にて院長発表)。
③ARNIはRAS阻害薬ではないのか?ARNIの分類についてはARB作用を持つ一方で、ANP・BNP上昇による輸入細動脈作用を有するためRAS阻害薬には分類しないと整理しました。

本研究は、CKD治療戦略におけるSGLT2阻害薬とRAS阻害薬の位置づけを検討するうえで重要な知見を提供するものとなりました。






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