美容目的でのGLP-1受容体作動薬(GLP-1製剤)使用について注意喚起
近年、一部の美容クリニックやインターネット通販などを通じて、「痩せ薬」や「ダイエット注射」としてGLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1製剤)が自費で処方・販売されるケースが増えています。
これらの使用には、医学的・倫理的・安全性の観点から多くの問題点があるため、以下の通り注意喚起いたします。
■GLP-1製剤とは?
GLP-1製剤は、本来は糖尿病治療薬として承認されている注射薬です。
一部の製剤では肥満症に対する適応(例:BMI≧27以上かつ肥満に関連する合併症がある場合など)がありますが、「美容目的(=痩身のみ)」での使用は承認されていません。
■問題点1:医療機関の説明責任・使用歴の確認不足
美容クリニックでは、糖尿病や肥満症の治療経験の全くない施設でGLP-1製剤が自費処方されるケースが多々あります。
以下のような状況がしばしば確認されます。
・医師が十分な問診や適応の確認を行わず、簡易なオンライン診療や短時間の説明のみで処方。
・これまでGLP-1製剤を使用したことがない方に対し、副作用やリスクに関する十分な説明がされていない。
・医療機関による適切なフォローアップがないまま自己注射を継続(注射薬が一方的に送られてくるケースがあります)し、主治医にも内緒で使用していたケースが当院でもありました。
・肥満でない方も使用するケースが散見されます。
■問題点2:副作用の軽視
GLP-1製剤には以下の重大な副作用のリスクがあります。
・消化器症状(吐き気・嘔吐・下痢・便秘など)
・低血糖(特に他の薬剤と併用時)
・胆嚢疾患(胆石・胆嚢炎)
・膵炎や腸閉塞の報告もあり
・長期安全性については、非糖尿病者での使用に関するデータは不十分
副作用を軽視した安易な使用は、健康被害を引き起こす可能性があり非常に危険です。適応外使用では医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
■問題点3:注射薬の管理・廃棄が不適切
・多くの美容クリニックでは、自己注射方法や針・薬剤の正しい廃棄方法に関する説明が不十分です。
・医療廃棄物である針を家庭ゴミとして廃棄する行為は、感染リスクを伴い違法行為となる可能性があります。
■問題点4:健康保険制度との不整合
GLP-1製剤の一部は高額な薬剤であり、本来は厳格な保険適用基準のもと使用されるものです。
それを美容目的で自由診療として気軽に使用することは、制度の乱用につながるおそれがあり、今後の医療資源の適正利用にも悪影響を及ぼしかねません。実際に2023年に日本ではGLPー1製剤が不足し、本当に治療の必要な糖尿病患者さんに処方できないことが起こりました。
■まとめ:医療機関・患者双方へのお願い
GLP-1製剤は、糖尿病や医学的に定義された肥満症の患者に対して、医師の厳密な判断と管理のもとで使用されるべき薬剤です。美容目的での使用を安易に選択することは、健康被害だけでなく、社会的・制度的な問題を引き起こす可能性があります。
当院では美容目的のGLPー1製剤処方は行いません。

ノルディスクファーマ株式会社ホームページ RMP資材より作成