経口セマグルチドのMACEに対する有効性(SOUL試験)について
本年経口セマグルチドによる主要心血管イベント(MACE)2次予防効果を検証したSOUL試験が発表されました。
今まで注射薬でのみ有効であったMACEに対する効果、しかも非致死性心筋梗塞に対する有効性(2次予防効果)が示された画期的な論文です。
経口セマグルチドを用いたMACE試験はPIONEERー6試験が以前発表され、プラセボと非劣勢が示されるも優越性はありませんでした。
それではこの2試験はどのように違うのでしょうか。
PIONEER-6試験とSOUL試験における MACEの結果の違いを背景因子やデザインの観点から比較した解説です。
1. PIONEER-6試験(Glycemic CV安全性確認)
・対象:2型糖尿病患者(≧50歳でCVD/CKD既往、または≧60歳でリスク因子有)で、85%にCVDまたはCKD既往あり
・患者背景:高リスク層だが、 MACE発生目標件数は約122 events と小規模
・期間:中央値フォローアップ15.9か月
・結果:MACE:オーラルセマグルチド群 3.8%、プラセボ群 4.8%、HR 0.79(95% CI 0.57-1.11)→非劣性証明、優越性は示さず(P=0.17)
・パワー(統計的検出力):MACE 25%差を検出できる力がやや低め(<80%)と評価される
2. SOUL試験(経口セマグルチドによるMACE抑制)
・対象:2型糖尿病で確立したASCVDおよび/またはCKDを有する高リスク患者
・患者背景:n=9,650、平均年齢66歳、糖尿病年数15年、BMI31、ASCVD70%、CKD42%、HF 23%
・CVD/CKDを強く意識した中等度~高リスク集団
・デザイン:イベント駆動型(1,225件のMACE発生まで継続)
・結果(最新報告):MACEリスクを14%軽減(HR 0.86、95% CI 0.77-0.96)と有意優越性を確認
両試験の比較:なぜ結果が異なる?
比較項目:PIONEER-6 対 SOUL
対象者背景:高リスク(CVD/CKD既往85%)対 高リスク(ASCVD/CKD確立例100%)
患者数:約3,183名 対 約9,650名
フォロー期間:約16か月 対 約47か月(平均)
イベント数:122MACE(小規模)対 1,225MACE(大規模)
試験目的:非劣性試験(安全性確認)対 優越性試験(効果検証)
結論:
・PIONEER-6試験では 短期・小規模・安全性確認目的のため、MACE優越性までは評価できず 非劣性で終了しました。
・一方、SOUL試験では 対象者をより高リスクに限定し、大規模かつ長期でイベント数を十分確保した設計で、MACE優越性が得られたことが強い検証力につながりました。
よって、両試験の結果差は 対象集団のリスクプロファイル、患者数、試験期間、デザインの違いによるものと言えます。
