現代医療において、患者一人ひとりに最適な治療を提供するためには、経験や勘に頼るだけでなく、信頼性の高い客観的データに基づいた判断が求められます。
こうした考え方のもとに発展してきたのが「データドリブン医療(Data-Driven Healthcare)」です。

データドリブン医療とは、診療・治療方針の決定、経過観察、介入の評価において、リアルタイムまたは蓄積された医療データを活用する医療のあり方を指します。
電子カルテ、ウェアラブルデバイス、生体センシング、クラウドベースの管理ツールなどから得られる膨大な情報を解析し、患者の病態に応じた個別化医療を行うことが可能になります。

当院では、このデータドリブン医療の概念を積極的に取り入れ、糖尿病、脂質異常症、高血圧、循環器疾患、慢性腎臓病(CKD)といった生活習慣病およびその合併症の診療に力を注いでいます。


1. 治療方針決定におけるデータの活用

当院では、従来の診察所見や検査結果に加え、Apple WatchやFreeStyle Libre 2などのウェアラブルデバイスから得られる連続的なバイタル情報や血糖値の推移を診療に組み込み、治療方針の決定に役立てています。
たとえば糖尿病治療では、患者さんの自己血糖測定(eSMBG)やCGM(持続血糖測定)によって得られた血糖変動パターンをもとに、インスリン投与や食事療法の細やかな調整を可能にしています。
低血糖持続時など緊急時の患者さんからの電話にもクラウドでデータを確認しながら対処法を指導しています。
また、高血圧の管理には、家庭血圧の電子的記録を共有し、診察時以外の血圧動態から降圧薬の選択や投与量の最適化を図っています。
Apple Watchは、心房細動(AF)の検出やモニタリングにも活用されています。
カテーテルアブレーション後のAF再発の有無や発作頻度の確認に、Apple Watchの心拍モニタリングや不規則脈通知機能が臨床現場でも使用され始めており、術後管理や再発防止の観点からも有用性が示されています。
患者さん自身が症状に気づきやすくなることで、受診のタイミングが適切になり、医師も早期介入が可能になります。


2. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)のデータ管理

循環器疾患との関連が深いSASの管理には、CPAP機器のクラウド接続による使用状況・効果のモニタリングを行い、データに基づいたフォローアップを実施しています。
クラウド管理によりCPAPの使用頻度、1回当たりの使用時間、1時間当たりの無呼吸頻度、エアリークの量など様々な情報を把握することができます。
これにより、患者さんのアドヒアランスを客観的に把握し、適切なタイミングでの教育やデバイス調整あるいはマスク交換を可能にしています。


3. 患者教育と行動変容支援

データドリブン医療は、単なる診断支援にとどまらず、患者自身が自らの状態を可視化し、生活習慣を見直す契機を与えるという教育的側面も持ちます。
当院では、血糖値や血圧の変化を患者とともに確認し、セルフモニタリングの意義や生活指導の効果を実感してもらうよう努めています。
また、デジタルツールを活用して、日々のデータをスマートフォンアプリに蓄積・可視化することで、患者自身が“見て、気付き、考える”プロセスを習慣化できるよう支援しています。
これにより、単なる受動的な治療から、自律的・能動的な健康管理への移行を促しています。


4. スタッフ教育とチーム医療の質向上

当院では、スタッフにもデータ活用の重要性を共有し、日常的に電子データの読み取りや解釈ができるような研修体制を整えています。
医師・看護師・管理栄養士・臨床検査技師などが同じデータをリアルタイムで共有することにより、チーム全体で統一された対応が可能となり、患者への迅速かつ一貫した支援が行える体制が整っています。


5.糖尿病管理における先進事例

糖尿病の領域でも、FDA認可のデジタル治療アプリ「BlueStar」が先駆的な例です。
患者さんの血糖・服薬・食事・運動などのデータをアプリが解析し、リアルタイムで行動指導を行うことで、医療者がいなくても日常的な血糖コントロールを支援します。
当院でもBlueStarの第三相臨床治験を行っており、日本での導入も近いと考えられます。


今後も当院では、テクノロジーの進歩を積極的に診療に取り入れ、患者中心のデータドリブン医療を深化させていく方針です。
患者の生活に寄り添いながら、科学的根拠に基づく医療を提供することで、QOLの向上と疾病の重症化予防を実現してまいります。


こちらの画像は、OpenAIの画像生成モデルDALL・Eによって制作されたものです。


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